獣医師目線の犬種図鑑・トイプードル編
獣医師による独断と偏見に満ちた犬種図鑑・トイプードル編です。
トイプードルは、ジャパンケンネルクラブの2016年のデータでは登録頭数76,393頭、2位のチワワに20,000頭以上の差をつけ堂々の1位。押しも押されぬ人気No.1犬種です。
「どんな犬種がおすすめですか?」と聞かれたとき、トイプードルと答えればまず及第点という位、飼いやすく万人受けする犬種だなあと思います。
そんなトイプードルのオモテの顔とウラの顔をのぞいてみましょう。
トイプードルのオモテの顔
エレガントで愛らしい外見
ふわふわの毛にまんまるな瞳、スマートな体型。
トイプードルのエレガントなかわいさは、誰もが認めるところだと思います。
カラーバリエーションも多く、トリミングによって変幻自在、自分好みに変身させることができるのも魅力のひとつです。
余談ですが、2000年代の初め頃からテディベアカットが広まるにつれ、トイプードルの人気が爆発的に高まりました。
それまでのトラディショナルなカットにはなかった魅力が、新たなファンを獲得したのでしょう。テディベアカットを初めて見たときは、新しい犬種?!というくらいの衝撃がありました。
温和な性質
おだやかで扱いやすい子が多いです。
適度な落ち着きと人懐っこさがあります。
愛情深く、飼い主さんとは深い絆を結ぶことができます。
従順な子が多いので、小さいお子さんがいてもトラブルになりにくいでしょう。
他の犬にも友好的です。
病院でも治療に協力的で(震えていることはありますが)、ひどく暴れたり、うなったり噛んだりすることはあまりありません。
かしこい
全犬種中、ボーダーコリーに次いで2番目に頭が良いという研究結果もあるくらい、とても頭が良く、トレーニングしやすい犬種です。
教え方を間違えなければ、ちゃんと人の意図を理解できるかしこさを持っています。本当に思慮深く人の言うことに耳を傾ける様子が見られます。
子犬のトイレのしつけなども他の犬種に比べて覚えが早いです。無駄吠えも少ない方なので、集合住宅向きかもしれません。
適度なサイズと運動量
小さいので、飼う場所や人をあまり選びません。
バッグに入れてヒョイ、っと運べるので、公共の交通手段を利用するのも楽です。あちこち一緒にお出かけしたい方にも向いているかもしれません。
ブラッシングやシャンプーも小さい分短時間で済みますし、フード代と医療費も基本スモールサイズです。
必要な運動量も少なく、朝晩10分くらいのんびり歩くお散歩でも満足してくれるのではないでしょうか。
毛が抜けにくい
シングルコートなのでそもそもの毛の量が少ないうえに、抜けにくい性質を持っています。
そういえば診察台の上で、興奮から大量の毛を落とす犬も多いのですが、トイプードルの抜け毛を見ることはほとんどないですね。他の犬種に比べて、日々の掃除の労力がだいぶ減ると思います。
あまりにおわない
生き物なので無臭というわけにはいきませんが、数ある犬種の中では体臭の少なさもトップレベルだと思います。
運動神経が良い
上品な見た目からは意外なほど、実は運動神経抜群です。
ジャンプはおどろくほど高く、走るのも早いです。
特に教えなくても二足歩行できる子がいたりと器用な面もあるので、サーカスでいろんな芸を披露するプードルもいます。
頭の良さと運動能力から、アジリティーなどの競技でも好成績を収めているので、一緒にそういうアクティビティーを楽しみたい飼い主さんにもおすすめです。
トイプードルのウラの顔
トリミングが大変
トリミングしないと毛がからまって大変なことになるので、見た目は気にしないわーという飼い主さんでも、犬の健康のために定期的なトリミングが絶対に必要です。
1~2か月に1回はトリミングサロンを予約して通う必要がありますし、その都度費用(1万円前後)がかかります。
毛の色が退色する
ホワイト以外の毛色はまず退色します。
しかも他の犬種のようにシニアになってからではなく、1~2才と若い時期から起こります。
ブラックがシルバーになったり、レッドがアプリコットになったり、別犬?というくらいダイナミックに変化することもあります。
原因が良く分かっていないため、予防法もないので、1頭で2度楽しめる(かも)くらいに心構えしておいた方が良いかもしれません。
悪知恵が働く
トイプードルはとにかくかしこいのですが、そのかしこさが裏目に出ることもあります。
悪いこともすぐに覚えます。
しつけの知識がなく甘い飼い主さんの場合、逆に犬の方がうまく飼い主さんをコントロールして(吠えて要求を通そうとするなど)、言うことを聞かずにわがまま放題になることがあります。
「頭の良い犬種だから何も教えなくてもいい子になると思ってた」という話を聞きますが、残念ながらしつけをしない頭の良い犬はかえって手に負えません。
ただかわいがるだけでなく、ちゃんと一貫した態度で犬と接する努力が必要な犬種だと思います。
依存しやすい
とても愛情こまやかで、飼い主さんと密な関係を築くことができる反面、飼い主さんに依存してしまうケースも少なくありません。
常に飼い主さんの後をついて回り、トイレやお風呂までついてこようとしたり、飼い主さんが外出すると不安になって物を壊すなどの問題行動が出ることもあります。
こっち見て!かまって!遊んで!というアピールも強めなので、犬と適度な距離を置きたい方には、トイプードルの愛情が負担に感じてしまうかもしれません。
食が細い子が多い
食べないというお悩みNo.1の犬種です。
電話相談室の仕事をしていたときに、食べないという相談をよく受けたのですが、8割方トイプードルだった記憶があります。
他の犬種なら、おやつを止めて、最悪1食か2食抜けばたいてい食べだすものなのですが、トイプードルの場合はこれが通用しません。
そもそも食に全く関心がなく、霞でも食べてるの?という位食べなくてもなぜか元気です。
飼い主さんは悩みに悩み、フードを何種類も試したり、トッピングをいろいろ用意したりと涙ぐましい努力をされていることもあります。
何なら食べてくれるのー!とノイローゼのようになってしまう方もいます。基本元気であれば大丈夫!と割り切るきもちも必要かもしれません。
ちなみに、(大変だけど)手作り食だと良く食べてくれた、というケースも多いです。
トイプードルのかかりやすい病気
涙やけ(流涙症)
涙やけ(流涙症)は目の周りの毛が茶褐色に変色した状態で、小型犬に多いのですが、特に白いトイプードルは良く目立ちます。
原因としては、逆さまつげなどが目を刺激して涙が増えるために起きるケースや、目から鼻に通じる涙を捨てる管(鼻涙管)が詰まって涙が目からあふれてしまうケース、不適切なフードなどによる涙の成分の異常などがあります。
中には治すことができるものもあるのですが、完治が難しいケースも多く、ずっとお付き合い&ケアが必要になるかもしれません。
骨折
細く長く薄い骨ゆえに、特に子犬のうちは良く折れます。
ソファー程度の高さから降りたり、足を踏まれたり、え、そんなことで?ということでもポキっといきます。
そして折れたあとくっつきにくいことでも知られています。
膝蓋骨脱臼
遺伝的に膝のお皿の骨が外れやすい子がとても多いです。
トイプードルに限らず小型犬全般にこの病気が良く見られるのですが、トイプードルも半数以上はこの問題を持っているのではないかと感じるほどです。
実際に日常生活に支障をきたしたり、手術まで必要になるケースは多くは無いのですが、ジャンプなどの運動を制限したり、太らせないなどの配慮はずっと必要です。
進行性網膜萎縮(PRA)
トイプードルに限らずいろんな犬種にみられる遺伝的な目の病気です。
目の奥にある網膜というスクリーンのような役目をはたしている部位がだんだんと委縮します。
暗くなると見えずらいという症状からはじまり、最終的には失明してしまいます。
トイプードルの場合、2~7歳で発症することが多いです。
残念ながら治療法はありません。遺伝子疾患をきちんと理解したブリーダーさんから入手することが最大の予防になります。
白内障
長生きする小型犬は、白内障になることも多いです。
トイプードルも10才くらいになると多かれ少なかれ目が白くなってきます。遺伝的にもっと若いうちから白内障になる子もいます。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
腎臓のわきにある副腎という小さな臓器から、ステロイドホルモンが過剰に分泌されてしまう病気です。
飲む水の量とおしっこの量が増え、おなかが出っ張ってきて、毛は薄くなり、息がハアハア上がるようになります。
また、糖尿病や膵炎、血栓症などの合併症を引き起こすこともあります。
副腎(20%)か、それをコントロールしている下垂体(80%)のどちらかが腫瘍化することが原因のため、摘出による根治が難しく、出すぎたステロイドホルモンの量を抑える内科的治療が中心になります。
まとめ
こうやって書き出してみると、人気があるのもうなずけるなあとつくづく思いました。あまりくせがなく、初めて犬を飼う方にもおすすめできる犬種です。意外と病気も少なく、丈夫ですしね。
しつけをめぐって飼い主さんとの間に頭脳戦が繰り広げられることもありますが、総じて飼いやすい犬種だなあと思います。