獣医師目線の犬種図鑑・ミニチュアダックスフンド編

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獣医師による独断と偏見に満ちた犬種図鑑・ミニチュアダックスフンド編です。

 

ミニチュアダックスフンドはジャパンケネルクラブ2016年のデータでは登録頭数20,239頭、トイプードル、チワワに次いで第3位の人気犬種です。

2000年代初めにブームとなり、2003年にはなんと167,780頭という登録犬数をたたき出したミニチュアダックスフンドですが、ここ数年はだいぶ落ち着いてきました。

そんなミニチュアダックスフンドのオモテとウラの顔をのぞいてみたいと思います。

 

目次

1 ミニチュアダックスフンドのオモテの顔
 01 胴長短足の個性的な外見
 02 外見のバリエーションが豊富
 03 甘え上手
 04 運動が好き
 05 お手入れは比較的楽(ワイヤー除く)
 06 食欲が旺盛

2 ミニチュアダックスフンドのウラの顔
 01 良く吠える
 02 誤食事故が多い
 03 太りやすい
 04 病気が多い

3 ミニチュアダックスフンドのかかりやすい病気
 01 椎間板ヘルニア
 02 クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
 03 進行性網膜萎縮(PRA)
 04 膝蓋骨脱臼
 05 ワクチンアレルギー
 06 無菌性結節性脂肪織炎(縫合糸反応性肉芽腫)
 07 炎症性結直腸ポリープ
 08 呼吸器疾患(リンパ球形質細胞性鼻炎、慢性気管支炎など)

4 まとめ
 

1 ミニチュアダックスフンドのオモテの顔

01 胴長短足の個性的な外見

長い胴・短い足というユニークな外見が最大の魅力です。コーギーにしろ、バセットにしろ、足が短いってなんでこんなにかわいいんでしょうね。短い足でトテトテと歩く姿が、母性本能をくすぐるのかもしれません。

02 外見のバリエーションが豊富

3つの被毛のタイプと豊富な毛色のバリエーションがあり、自分好みの子を選ぶことができます。

被毛のタイプは、一番人気のロング、つるつる短毛のスムース、短くかたい毛がウェーブしたワイヤーの3タイプがあります。

毛色はレッド、ブラックタン、チョコレートタン、ダップル、ブリンドルが基本ですが、そこから派生した毛色も入れると数え切れないほどです。

被毛×毛色の組み合わせで様々なタイプの子が存在し、一口にミニチュアダックスフンドといっても別犬種では?と思うほどの見た目の違いがあります。

ただし、ダップルなど珍しい毛色は、遺伝的な病気のリスクが高くなるため、信頼できるブリーダーから入手するなど、慎重に検討したほうが良いと思います。

03 甘え上手

人間が大好きで、飼い主さんに素直に甘えることができます。甘え上手で、飼い主さんをメロメロにしている子も多いでしょう。

被毛のタイプによって性格には若干違いがあり、スムースは明るく元気はつらつだがちょっと気が強い、ロングはおっとりやさしいけどちょっと神経質、ワイヤーは社交的だけどちょっと頑固という傾向があります。

04 運動が好き

もともと狩りをするために作られた犬種なので、体を動かすことは大好きです。見た目に反して、結構なスピードで走り回ります。アウトドアなどアクティブなイベントを一緒に楽しむこともできるでしょう。

05 お手入れは比較的楽(ワイヤー除く)

スムース、ロングはトリミングは必要ないので、サロン通いは必須ではありません。お家でのお手入れも可能です。

ワイヤーのテリアのようなかたい毛を維持するには、プラッキングと言って毛を抜く特殊なカットが必要です。このカットをしてくれるサロンはなかなかないので、ワイヤーらしい毛を維持したい場合にはまず近くにそういうサロンがあるか探す必要があります。

プラッキングでなく通常のバリカンを使ったトリミングを行うと、毛は柔らかくなり、ワイヤーらしい毛質ではなくなりますが、それもまたかわいいです。

06 食欲が旺盛

食欲が旺盛な子が多いので、小型犬にありがちな「食べない。。。」というお悩みはほとんどないと思います。選り好みもあまりせず、出したら食べてくれるので、ドッグフードジプシーになることも少ないと思います。

 

2 ミニチュアダックスフンドのウラの顔

01 良く吠える

もともと吠えて獲物を追い立てるという狩りに使われていたので、「良く吠える」ことを重視してブリーディングされてきたという歴史があり、愛玩犬になった現在もその性質が残っているようです。

病院でも良く吠える犬種の1、2位を争います。家庭でも、インターホンや電話の音、来客に吠えることにお悩みの飼い主さんは多いように思います。集合住宅で飼うには、入手先を選び、ちゃんとしつけができるかよく考えたほうが良いでしょう。

02 誤食事故が多い

食欲旺盛なのは良いのですが、食べ物でなくても何でも飲み込んでしまう子がいます。ビーグル、レトリバーと並んで誤食事故が多く、胃カメラを3回飲む羽目になった誤食の常習犯もいました。食べそうなものを置きっぱなしにしない、ゴミ箱をあされないようにするなどの対応が必要です。

03 太りやすい

これも旺盛な食欲ゆえなのかもしれませんが、太ってしまう子が多いです。後述するヘルニアを心配してダイエットを心がけている飼い主さんはとても多いのにもかかわらず、肥満体型の子は多いので、中年以降スリムな体型を維持するのは結構大変かもしれません。

04 病気が多い

詳しくは後述しますが、椎間板ヘルニアをはじめ、ミニチュアダックスフンド特有の病気が多いです。免疫系の異常からくる病気が多いのも特徴で、変わった体質の犬種だという印象があります。

多額の治療費がかかったり、治療が長期化する病気になる可能性が他の犬種よりも高いので、治療費にや看病に対する覚悟が必要です。

 

3 ミニチュアダックスフンドのかかりやすい病気

01 椎間板ヘルニア

ダックスと言えばヘルニア、というくらい、ミニチュアダックスフンドに本当によく見られる病気です。

背骨と背骨の間にあって骨がぶつかり合わないようクッションのような役目をしている椎間板というものがあるのですが、ダックスフンドの椎間板は生まれつき変形しやすいという性質を持っています。椎間板が変形すると、背骨の中を走っている神経を圧迫し、軽い腰痛から、下半身の完全な麻痺まで様々な症状を起こします。

麻痺が無ければ安静にして炎症を抑えるお薬を飲めば回復するケースが多いのですが、再発も少なくありません。重症例では手術が必要なこともあります。

予防のためには太らせないこと、腰に負担がかかるような運動(ジャンプなど)を積極的にさせないなど、気をつけたほうが良いでしょう。

02 クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)

腎臓のわきにある副腎という小さな臓器から、ステロイドホルモンが過剰に分泌されてしまう病気です。飲む水の量とおしっこの量が増え、おなかがパンパンに膨らみ、毛は薄くなり、息がハアハア上がるようになります。また、糖尿病や膵炎、血栓症などの合併症も少なくありません。

副腎(20%)か、それをコントロールしている下垂体(80%)のどちらかが腫瘍化することが原因のため、摘出による根治が難しく、出すぎたステロイドホルモンの量を抑える対症療法が中心になります。

03 進行性網膜萎縮(PRA)

ミニチュアダックスフンドに限らずいろんな犬種にみられる遺伝的な目の病気です。目の奥にある網膜というスクリーンのような役目をはたしている部位が進行性に委縮します。

暗くなると見えずらいという症状からはじまり、最終的には失明してしまいます。ミニチュアダックスフンドの場合、早期(1~2才)から発症することが多いです。残念ながら治療法はありません。遺伝子疾患をきちんと理解したブリーダーさんから入手することが最大の予防になります。

04 膝蓋骨脱臼

膝のお皿(膝蓋骨)が膝の定位置から外れてしまって、痛みや違和感、足がつけないなどの症状がみられる病気です。多くは生まれつきで、年とともに進行し、足が変形することもあります。小型犬全般に広く見られる病気ですが、ミニチュアダックスフンドでもよくみられます。

症状が軽いものは、体重を増やさず、無理な足の使い方をしないよう気をつければ日常生活には支障が出ないのですが、ひどくなると手術が必要なこともあります。

05 ワクチンアレルギー

病気を予防するためのワクチンですが、副作用がないわけではありません。そしてミニチュアダックスフンドはなぜかワクチンの副作用が出やすいことで知られています。

ワクチンを打ってすぐに意識を失って倒れてしまうものから、半日くらいたってから顔が腫れたり熱が出たりというタイプまでいろいろです。いずれもすぐに治療することができれば回復しますが、治療が遅れると命にかかわることもまれにあります。

ワクチンは体調の良い時に受け、ワクチン接種後数時間は気をつけて様子を見て、何か異変があったら病院に行けるような体制を整えましょう。一度アレルギーが出てしまった場合、次回はワクチンの種類を変えたり、アレルギーを予防する薬をワクチン前に打つなど対応策をとります。抗体値を調べて、抗体が十分あるようだったらワクチンを打たないという手もあります。

06 無菌性結節性脂肪織炎(縫合糸反応性肉芽腫)

これも免疫系の異常が原因と考えられているのですが、ミニチュアダックスフンドは突然皮膚に穴が開き、そこから血膿がジュクジュクと出てくることがあります。

多くは避妊や去勢手術などの手術時の縫合糸がきっかけで起こるようです。糸は体にとって異物なのですが、これを排除しようとして起こる炎症反応がミニチュアダックスフンドの場合強すぎるのです。

お腹の中の臓器を糸で縛った後に炎症が起きたものは、まるで腫瘍のように見えることがあります。また炎症がお腹の中に広がり、他の臓器に波及して穴をあけてしまったりと、かなり厄介な事態になることもあります。

ステロイドなどの免疫を抑える薬を使うと炎症はおさまるのですが、薬をやめると再発し、治療は長期化することが多いです。糸がきっかけなら、糸を手術で取り除いてしまえば完治しそうなものですが、いったん炎症のスイッチが入ってしまうと、糸を除去しても体のあちこちで炎症反応が止まらないケースもあります。

まだすべての動物病院で行えるわけではありますが、血管シーリングシステムという機械を使って糸を使わずに縫合する方法もあり、ミニチュアダックスフンドの手術に関しては、無菌性結節性脂肪織炎を起こさないためにシーリングシステムを使用できればベストだと思います。

07 炎症性結直腸ポリープ

腸の出口付近にポリープができ、いつまでたっても治らない血便や排便時のしぶりを起こす病気です。これもミニチュアダックスフンド特有の病気で、免疫の異常からきていると言われています。

治療はやはりステロイドをはじめとする免疫抑制剤を中心に使用し、数か月単位の長期の投薬が必要です。ひどい場合は手術で取り除いたり、高周波で凝固させたりもするようですが、炎症は再発しますので、手術をもってしても完治は難しいです。

08 呼吸器疾患(リンパ球形質細胞性鼻炎、慢性気管支炎など)

慢性的な鼻づまりや鼻水、咳に悩むミニチュアダックスフンドも多いです。どちらも原因ははっきりしておらず(リンパ球形質細胞性鼻炎は免疫がかかわっている可能性あり?)、治療法も確立されていません。内服やネブライザーで症状を和らげる治療が中心となり、なかなか完治せず治療は長期化する傾向があります。

4 まとめ

あらためてミニチュアダックスフンドについてまとめてみて感じるのは、変わった病気が多いなあということです。ブームになった犬種の宿命かもしれませんが、無理な交配の影響が少なからずあるように思います。

犬種ブームが落ち着いた後に、本当に良い犬が出てくるといわれています。病気のことがなければ、飼いやすい愛らしい犬種だと思いますので、今後のミニチュアダックスフンドのブリーディングに期待したいところです。

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