「しあわせな安楽死」があるとしたら

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安楽死は飼主さんにとっても、獣医師にとっても重い重い選択です。

 

獣医師の中でも意見の分かれるところであり、絶対にしないという獣医師もいれば、獣医師の方から積極的に提案する方もいます。

 

人間の安楽死と同じく、文化によってペットの安楽死のとらえ方も異なります。

 

欧米だと動物のQOL(生活の質)を尊重し、その子らしい生活が送れなくなった時点で苦痛を取り除くのが飼い主の責任、という考えから安楽死を肯定するのが主流だと聞きます。

 

それに対し日本は、安楽死に対して心理的な抵抗を感じ、最後まで自然に看取ろうという方が多いように思います。

 

人と違って法律の縛りはなく、どちらが正しくてどちらが間違っているという問題ではない動物の安楽死を前に、いつまでたっても右往左往してるのが私の現状です。

 

基本的にこちらから提案することはせず、医学的に適切と判断できる症状かつ飼い主さんの希望がある場合には受け入れる、というのが私のスタンスなのですが、過去の忘れられない飼い主さんからの言葉があり、いざ安楽死の事例を前にするといつも本当にこれでいいのか?と自問自答します。

 

心臓病で2年以上にわたる闘病生活を送り、最後は酸素室から出られず亡くなったポメラニアンの飼い主さんからのお手紙には、先生の方から安楽死を提案して欲しかった、そうしたら長いこと苦しませずに済んだかもしれない、と書かれていました。

 

麻薬性鎮痛剤でも抑えきれない骨肉腫の痛みと肺転移の息苦しさで夜も眠れなかった秋田犬の飼い主さんは、家族会議の後に安楽死を希望されました。亡くなってから1年くらいして、新しいワンちゃんを連れて来院されたときに、今でも安楽死を後悔しているとおっしゃっていました。あの時安楽死をしなければもっと長生きしたのではないかという思いがぬぐえない、と。

 

安楽死をするかどうかについては、医学的な正当性だけでなく、飼主さんはどんな性格で、どんな死生観や文化的背景を持っていて、犬以外の支えとなる存在がどのくらいあるのかなど、飼主さんの状況を十分考慮して判断をする必要があるのだと思います。

 

そして、決断に至る前に、「十分考えることができたかどうか」がとても大事です。飼主さんの揺れ動く気持ちにていねいに寄り添い、飼い主さんの選択を時間をかけてサポートし、安楽死を行った後もフォローする存在が必要です。

 

本来はちゃんと心理学を学んだカウンセラーが時間をかけてやるべきことだと思うのですが、残念ながら現状の動物病院では、そのニーズを満たせていないところがほとんどです。

 

そもそも、安楽死は獣医学の中でも未だおおっぴらに語ることがはばかられる風潮があり、ガイドラインすら存在しないのです。ですので、獣医師も迷いながら手探りで対応しているのが現状で、獣医師の無知ゆえの不幸な事例というのも少なからずあるのではないかと思っています。

 

自責の念や後悔、うしろめたさ、迷い、不安。とかく暗いイメージがつきまとう安楽死ですが、どうしてもやらなければならないとしたら、飼主さんが安楽死を受け入れることができて、楽になれてよかった、良い最後だったと心から思えるような「良い安楽死」のようなものを、そろそろ獣医療の一部としてちゃんと考える時期なのではないかと思います。

 

ちなみに、実際の安楽死は、留置針という点滴の管を血管に入れ、そこから大量の麻酔薬を素早く入れることで行われます。ほとんどはあっという間に(数分)、スーッと眠るように亡くなります。深いため息のような呼吸をすることはありますが、暴れたり痛がったり苦しがったりということはありません。

 

立ち合いには勇気がいると思いますが、実際に目にすると安心される方がほとんどです。可能な限り抱っこやそばにいて見守ってあげると、動物も安心して最後を迎えられるように思います。

 

 

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「しあわせな安楽死」があるとしたら” に対して 3 件のコメントがあります

  1. 柴田 より:

    14歳10ヶ月のミニチュアダックスの愛犬が癌の末期で自宅での安楽死を選びました。
    、自宅で静脈がカテーテルの注射に入らず、筋肉注射をされ病院で処置すると言われました。その時に私は泣きながら、もうやめて下さい!最後まで私が看取るので返して下さい。と言ったら、それは出来ませんと強制的に病院にいかれました。
    その後口に腫瘍がたくさんあるため、全く口を
    開かなかった愛犬が処置の為、大きく口を開けられ固定され麻酔を口からすわされ、モニターをつけられ、先生は愛犬の心臓を早く止めるのに必死になら、たくさん注射もされました。
    それでも愛犬は1時間以上頑張って心臓は元気でした。安楽死の処置に1時間半もかかり、最後は
    ご臨終の言葉もなく、私がなくなった時間は
    何時なんですか?と聞くという適当な時間。
    最後にお別れの挨拶も出来ないまま
    先生は早く亡くなった後の処置をしないと、
    と言われ、もう愛犬は物としか思えない
    様な酷い扱いでした。この子は非常に心臓が
    強くて、うちでははじめてです。と言われました。私は愛犬の姿があまりにも酷過ぎて殺された
    としか思えないので、ちゃんと天国に行かれたのか、私が最後に見た愛犬の痛そうな姿を見て
    一生後悔してペットロスになると思い
    訴えたいと思います。6件別の動物病院に聞いたところ、安楽死に1時間半かかる事はありません。と言われました。一生浮かばれない
    愛する愛犬の為に闘いたいと思います

    1. 道草獣医 より:

      しばらくPCを離れていたため承認が遅くなり申し訳ありませんでした。
      つらい経験をお話しいただきありがとうございました。このようなことが起こらないように何ができるか、私も考えていきたいと思います。

      1. 柴田 より:

        昨日2回目の月命日でしたが、
        日が増すごとに、何故あの時私が
        安楽死を中止するように頼み
        家族全員が納得してないのに
        強行されてしまったのか、
        誰に相談していいのかわからないので教えて欲しいです。私は最後の酷い姿を思い出し
        毎日泣いています。
        経験不足な獣医師を許すことが
        出来ず、一生恨んでしまうと思います。どうかこの様に安楽死が
        一時間半もかかり、愛犬も家族も
        納得がいきません。
        誰に相談したらいいのか
        ぜひ教えて欲しいです。

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