米ユナイテッド機内で子犬を頭上に収納させられ……犬は死亡 【短頭種の輸送の難しさ】
ちょっと前ですが、こんなニュースがありました。
米ユナイテッド機内で子犬を頭上に収納させられ……犬は死亡(BBC NEWS JAPAN 2018年03月14日)
犬をキャリーケースに入れて飛行機の座席の足元に置いていたところ、CAに頭上のロッカーに入れるよう指示され、3時間あまりのフライトの後、キャリーケースを下ろしたらすでに亡くなっていた、という痛ましい事故です。
ユナイテッドのルールがどうだったかはわかりませんが、この事件の後、犬は頭上のロッカーに入れない、という声明が出されています。
巷の声も、頭上のロッカーに入れられたことで死亡したと考え、入れるように指示したCAを非難する声が多いようです。
でも頭上のロッカーに入れなければ今回の事故は防げていたでしょうか?私はたとえキャリーが足元に置かれていても、事故が起きていた可能性は否定できないと思います。
というのも、今回の犠牲になった犬はフレンチブルドッグという犬種だからです。
フレンチブルドッグやパグ、ブルテリア、ボストンテリア、シーズーなどの鼻ぺちゃさん(短頭種と呼びます)たちは、鼻の穴やのどが狭かったり、気管が異様に細かったりと、もともと呼吸に問題を抱えている子がとても多いです。(詳しくは短頭種気道症候群でググってみて下さい)。
通常はいびきが多いとか、起きててもブーブー鼻を鳴らしてる程度なのですが、興奮や暑さという負荷にはめっぽう弱いのです。
来院途中に興奮から呼吸が早くなり、体温がどんどん上がってしまって、3月にもかかわらず熱中症を起こしてしまったパグさんを診たことがあります。
夏場は診察室をキンキンに冷やして順番が来るまでそこで待っていただく、ということもあるくらい鼻ぺちゃさんの診察は気を使います。
このくらいデリケートな犬種なので、航空会社でもその問題は認識しているようで、例えばANAは夏場の短頭種の輸送を受け入れていません。
ユナイテッドが今回貨物室ではなく、客室にキャリーを持ち込めるようにしたのも、もしかしたら短頭種ということで特別に配慮したのかな、とも思います。そしてそれがあだになったかもしれません。
今回亡くなった子が入っているキャリーケースの写真を見たのですが、小さすぎる印象を持ちました。その子がギリギリ入れるくらいの大きさで、中で方向転換するのも難しいような感じでした。おそらく、座席の足元に置くにはこのサイズが限界だったのでしょう。
このようなキャリーケースでは熱がこもりやすく、たとえ足元に置かれていたとしても、その子が出して!!と少しでも騒いだりしたら、寒いくらいの機内でも熱中症になってしまったとしてもおかしくありません。
今回のケースは私だったらどうするか。鎮静剤を使って眠らせるか、大きなケージを使って貨物室に入れるか、いろいろ考えてみたのですが、100%の安全を保障できるかと言われたらNOです。
どんな犬種でも輸送にリスクはつきものですが、特に短頭種にとっては本当にリスクが高いものです。今回の事故が、単にユナイテッドの批判にとどまらず、鼻ぺちゃさんたちへの理解が深まる機会になると良いなと思っています。