フィラリア薬は1か月間ずっと効いているわけではない・正しいフィラリア予防のしかた
犬を飼ったらフィラリア薬を使用されている方は多いと思いますが、正しく投薬できている方は意外と少ないと感じています。フィラリア薬は誤解されていることが多い薬です。
1か月に1回飲めばよいお薬なので、飲んでから1か月効き続けていると思われていることが多いのですが、実はフィラリア薬は飲んでから1日程度しか効いていません。
この事実があまり知られていないせいで、せっかくお薬を飲んでいるのに不完全な予防になってしまっていることも珍しくありません。
フィラリア薬飲んでいたのに感染してしまった、という事態にならないためにも、フィラリア薬の効くメカニズムについて少し考えてみましょう。
目次
01 フィラリア症とは
02 フィラリア薬の歴史
03 フィラリア薬のメカニズム
04 フィラリア薬を使う上での大切なこと
01 フィラリア症とは
フィラリアは、犬の心臓に寄生する短いそうめんのような寄生虫です。蚊が刺すことによって蚊の体内にいるフィラリアの子虫が犬の体内に注入され、成長して犬の心臓に寄生して様々な症状を引き起こします。
重症例だとフィラリアの成虫がぎっしり心臓の中に詰まった状態になるので、心臓は変形するし、血の流れが悪くなって疲れやすくなったり、腹水が出たり、咳が出たりします。また子虫をガンガン産むので、その子虫が肺や腎臓にダメージを与えます。そんなに寄生数が多くなければ症状も軽く済むのですが、重症になると命にかかわります。
フィラリア症の発症は地域性が強く、予防薬を飲まなくても大丈夫なのでは?という清浄化された地域から、ちょっと飲み忘れただけで発症してしまう流行地まで様々です。
02 フィラリア薬の歴史
さて、そんなフィラリア症を防いでくれるお薬の歴史はそんなに長くなく、30年位前まではフィラリア症で命を落とす犬がたくさんいました。
フィラリアの薬が出始めたころは、蚊がいるシーズンは毎日飲ませる必要があったという話も聞いたことがあります。今では1か月に1度の投与になり、錠剤だけでなくおやつタイプやスポットオンタイプなど、いろんな投与方法も選べるようになりました。
余談ですが、一番最初のフィラリア予防薬であるイベルメクチンの原型は、ノーベル医学生理学賞を受賞した大村智さんによって発見されています。
世界にはいろんなタイプのフィラリアがいて、発展途上国では人に感染して失明させるフィラリアが大問題だったので(注:犬に寄生するフィラリアは人にはうつりません)、イベルメクチンの登場でたくさんの人と犬が救われることになりました。
03 フィラリア薬のメカニズム
前置きが長くなってしまいましたが、本題です。なぜフィラリア薬は1日しか効果がないのに、1か月に1度の投与で良いのか?
実はフィラリア薬や予防薬ではなく、駆虫薬です。フィラリアが犬の体内に入ってくるのを防ぐことはできません。
ではフィラリア薬は何をしているかというと、犬の体内に入ったフィラリアの子虫を1か月分まとめて駆虫しているのです。
犬の体内に入ったフィラリアの子虫は1~2か月の間、無害な存在として犬の体の中をさまよっており、子虫のうちなら、お薬で安全に駆虫することができます。フィラリアが成虫になってしまうと、駆虫が困難になります。
このようなことから、子虫のうちにまとめて駆虫してしまおうというのがフィラリア予防のコンセプトです。
04 フィラリア薬を使う上での大切なこと
ということで、フィラリア予防では、最後いつまで飲ませたか?がとても大切です。
10月1日が最終投与日だった場合、その後に万が一フィラリアを持っている蚊が犬を刺したら、フィラリアの子虫はすくすく育って翌年の春には立派な成虫になって子虫を産み始めます。そうなると、普通のフィラリア薬では駆除することができません。
最後にフィラリア薬を飲ませてからもし蚊を見かけるようであれば、もう1か月延長して飲ませる必要があるのです。
「蚊が出た!」と早くから飲ませ始める方は多いのですが、最後の投与に関しても割と早めに切り上げてしまう方が多いように感じます。フィラリアの薬が6か月分で1パックになっている影響もあるのかもしれませんが、4月から飲み始めて9月で最後、というのは地域によっては感染が起きてしまう可能性もある怖いパターンです。
フィラリアの子虫は犬の体に入ってから1~2か月は泳がせていても大丈夫なので、蚊が出たからと言って即座に飲ませる必要はありません。それよりも最後の投与を遅くするのが大切です。
飲ませ始めは遅く、飲み終わりも遅く
投与が必要な時期は、蚊に悩まされる時期より若干後ろにずれるため注意が必要です。
せっかくのフィラリア薬、メカニズムを理解して、正しく使ってくださいね。